昨日の続きを書くことにします。
漆黒の樹林を抜けると、前方に”小山”のような山に、光の連続が見えてくる。
山小屋の光か、それとも登山者の光なのか。
闇の中に、開聞岳のような印象で浮かんでいる。
その小山が、紛れもなく私達の前に立ちはだかる富士山なのだ。
六合目を過ぎたあたりから、私の体は変調をきたしてきた。
やたらに息が苦しい。
20mも進むと石に座って休む、そんな連続になってしまった。
富士山には何度も登った。
でも、こんなことは一度も無かったはずだ。
体力の衰退なのか、それとも気力か・・・・自問を繰り返す。
それでもと、気を振り絞って登って行く。
やっと八合目に辿り着いて、少し休むことにした。
それが悪かった。山小屋の壁にもたれて一時間も眠ってしまったのだ。
朝日の温かさに、つい油断したのだろう。
目覚めて、さらに胸突八丁に向かおうとした。
だが、見上げるばかりの斜面が、足を萎えさせてしまった。
「何故だ!」そんな思いとの格闘の末、下山を決意した。
時どき滑り落ちながら、五合目に11時近くに辿り着く。
振り返ると、昨夜は小山だったはずの富士が悠然とそびえている。
痛めた足をさすりながら、富士スバルラインを下っていく。
富士宮までの下りの道が40km近く続く。
それに30kmは、杉や桧の森が延々と続くのだ。
走れど走れど、森は終わらない。
もう街だろう、家が見えるはずだ。
あのカーブを曲がればきっと・・・そう思いながらの30kmである。
カナカナカナと、ヒグラシの声だけが響いている。
時折、五合目からの直通バスが追い抜いていく。
高速バスに立ちはだかって止めたくなる衝動が続く。
でも、「今回は我慢だ」と言い聞かせる。
16時過ぎ、昨夜は元気に走った富士宮の浅間神社に達する。
そこから一キロほどの所に、身延線の富士宮駅がある。
もう迷いはなかった。
電車に乗ろう。
この体調で、良くぞここまで走ってきたものだ。
車中、呼掛人の萩田さんに電話を入れる。
私は、これまで多くのレースに出てきた。でも、リタイアなどしたことはないのだ。
残念ながら、今回は田子浦に到達することはできなかった。
「田子浦ゆ うちい出でてみれば 真白にぞ 富士の高根に 雪は降りける」
仰ぎ見る富士の高根に、今年は敗北してしまった。
が、それにしても、あの下りの40kmは相当な忍耐力を必要とする。
富士山は、結構広いのだ。
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