玄妙 狂の舞
前衛舞踊とは聞いてはいたが、しかし・・・と言う感想だ。
闇夜に僅かばかりの明かりがある。
音楽も無く、聞こえるのは虫の声ばかりだ。
立ち木の向こう側でもそもぞと何かが動いている。
何が起こるのかと息を呑んで待つのだが、何も起こることは無い。
やがて木の隙間から一人の踊り手が現れる。
下駄を脱ぎ捨て、異様な形相で靴下を脱いでいく。
さらに赤いシャツをも海老反りになって脱ぎ捨て、
右に左にと裸で走り回る。
やおら地に倒れこむと、今度はその地べたをゴロゴロと転げまわるのだ。
汗びっしょりで、その汗に土がまとわり付いていく。
そんな一時間余の演舞の後、
彼は「ニャーゴ」と一声叫んで一連の舞台を終えた。
踊り手は田中泯さんだ。
地べたに御座を敷いた会場には、
70歳になろうとする彼の踊りを見る為に、200人余が取り巻いている。
仮に私が同じ事をやったとしたら、それは狂人の他何物でもなかろう。
前衛舞踊家田中泯だからこそ、
観衆は息をつめてその「舞台」を見つめている。
そもそも芸術は、形に意味を持たせその洗練に美を見出してきた。
芸術は、整形の美であったはずだ。
私達は、その形に物語を見出して納得して来た。
しかし彼は、そんな諸々をことごとく無視して、
何ものかを表現しようとしている。
私なぞは、その幾ばくにも納得し得ないでいた。
田中泯の世界は、それほどに人生の無為を表している。
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