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2018年4月25日 (水)

NO2-万平ホテル

 写真館の真向かいに、軽井沢で一番人気とされるパン屋があった。時枝が「入ろう」と言うので、「軽井沢で、何故パンなのか」と訝りながら奥に進むと、そこにはシックなコーヒースタンドがあった。「軽井沢は、二度目なの・・学生の頃に来たことがあってね、何にも変わってない。それでもあの頃より、若い人が増えているかなぁ〜」「ね、ねぇ〜、明日この峠の先まで走ってみない。」などと話しているうちに、注文したモカが出てきた。男は一呼吸おいて、おもむろにカップを鼻の前に引き寄せて掲げ、「うぅ〜ん、いい香りだ。」と呟いた。彼女も「ほんと、良い香りだわ。あなたと来られて良かった。」と相槌を打つ。しかし実は、男の嗅覚は既に絶えて久しく、何の香りも感じていなかった。使わない機能は歳と共に衰えるのだそうで、代わりに目や舌が鼻の代わりをする。何となく香りを感じた気持ちにしてくれるのだ。だから不自由はないが、それは老化の一つのバロメーターなのでもあった。

 外に出ると、既に陽が傾きかけて黄昏が迫っていた。それでも通りは相変わらずの賑わいで、その人垣の中を二人は肩を寄せ合ってホテルに向かった。ホテルは、レトロホテルとして知られた万平ホテルである。明治27年、軽井沢に初めてできた洋式ホテルで、初代万平の心づくしのもてなしが外国人の評判を呼んだという。そもそも軽井沢は中山道の宿場だったところで、明治維新以降はすっかり寂れた寒村になっていた。その軽井沢に避暑地としての魅力を見出したのが、カナダ人宣教師アレキサンダー・クロフト・ショーだった。二代目万平が神学校に通うなどしてショーとの親交を深め、本格的なホテルへと発展させたのが今日の万平ホテルだ。とは言え、林の中に建つホテルは山小屋かと思わせる造りで、その半開きの扉をギギーっと押して中に入ると、薄暗いフロントはあくまでも黒く沈んでいた。「ひょっとすると、バスタブは昔のアレかしらねぇ? ほらっ、マリリン・モンローが入っていたヤツ。」「まさか!」などと言いながら二人は二階の部屋へと向かった。

 部屋に入ると「あらっ、特別豪華って訳じゃないのね。でも、何だか、いいわねぇ」と声を上げる時枝に、「うん、機能美っていうのかな、何も無駄がないだろう。それに落ち着くじゃない。そうだなぁ〜、時ちゃんと同じだよ」「何それ、私が古ぼけているってこと?」「そうじゃなくって、そのぉ〜君の体の様に官能的だってこと。」時枝は頬を幾分上気させていて、弾力のある体を男にすり寄せてくる。その時枝を受け止めながら、軽く唇を吸うと直ぐに押し戻した。ディナーの時間が迫っているし、それにこのホテルのミュージアムを観ておきたかったのである。

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投稿: かわい | 2018年4月25日 (水) 21時22分

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