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2018年5月 2日 (水)

NO9-神楽坂

この岩原という男の活力は、何処から湧いてくるのだろうか? 財力もさることながら、次から次へと自分を限界へと駆り立てていく。並みの人間というものは、知らず知らずの間に自分自身を型にはめてしまうものだ。やりたいことをして、やりたくないことはしない。そうやって、自分の殻に籠っちゃう。現に俺だってそうだ。マラソンを楽しんできた延長線上にウルトラマラソンがあって、単にそれを走ることがさも特別であるかのように思っていた。それが古稀の声を聞いて、俺はもうこんな歳になったのかって気付いて、いささか狼狽えている。

その夜、男は浅い眠りの中で夢を見た。大きなリュックを背負って砂山を登っていく夢である。何故かそのリュックには、雨傘が一本挿してあった。 

第三節 神楽坂

下野街道から帰って数日後、男は神楽坂の赤城八幡神社にいた。時枝が、今度は東京で会おうと指定してきた場所である。メトロ神楽坂駅で降りて少し歩くと、そこにはガラス張りの社殿があって、社務所の隣が神社の経営する喫茶店という如何にも東京の神社なのである。約束は神社で10時に落ち合って、神楽坂の通りをぶらぶらと歩き、昔の花街の通りのエトランゼという洒落たレストランでフレンチを食べようと言うものだった。男は、神楽坂の幾ばくかレトロな街に見入りながら、時枝の笑顔を待っていた。

 しかし約束の10時を過ぎても、何故か時枝は現れなかった。律儀な女でこれまで約束を違えたことなど一度もなかったのに、一向に姿を現さない。約束を勘違いしたのかと時枝にメールをしても返ってきてしまう。電話は「使われておりません」と繰り返すばかりであった。「会えて良かったぁ~」と何処かから元気な声が聞こえるような気がするのだが、何時まで待っても姿が見えなかった。とにかく、何か時枝に異変があったのである。その何かの予感に、男は次第に怯え始めていた。考えられるのは、時枝の変節だが・・、それはあるまい。とすれば、二人の関係が露見して・・。などと男は、いささかうろたえていた。だが考えてみれば、男は彼女の住所すら知らなかったのである。目黒だと聞いてはいたが、二人の紐帯は僅かにスマホだけだったことに彼自身唖然とする思いだった。

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やむなく男は神社の喫茶店に入り、次々と訪れる参拝客を眺めていた。

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