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2019年3月 2日 (土)

オアシス

第八節 オアシス

砂漠のただ中を走ること2時間、やがて車は大西洋岸に面したコテージ風の宿「ドリフト・ウッド」の前で止まった。静かな波の音が響く、材木の木目が小粋な宿であった。長旅の疲れが重なっていたから、少しホッとして中に入ると、小柄でキュートな黒人娘がカウンターの向こうで出迎えていた。チェックインもそこそこに「荷物が、無いんだ」と言うと、娘は手慣れた様子で空港に電話し、「ここに泊まっている」などと連絡を取ってくれた。

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その夜、男は三日ぶりにベットに体を横たえた。だが、随分と疲れているはずなのに、眠るどころか何時までも興奮が続いていた。多少のリスクは承知で敢えて挑んだ筈だが、そもそも70歳の自分には無茶だったんじゃないかと言うことである。もう、後戻りは出来ない。男はコテージの天井を睨み付けながら、覚悟を決めていた。翌朝食堂に降りていくと、顔立ちのくっきりとした娘が微笑みかけてきた。25歳くらいの屈託のない娘で、オーストラリア人のジャッキーと名乗った。袖に縫い付けたバッヂを見て、今回のレースの仲間だと分かったようだ。

オアシスの朝は、昨日の熱波とは打って変わって爽やかで、男は元気を幾分甦らせていた。男は、澄江と高岡と連れだって海岸に沿って走り、スワップムントの街まで20k近くを往復することにした。海岸には遊歩道が続いていて、スプリンクラーの水の下には多肉植物や小さな花々が咲き乱れている。その帯のように続く花のアプローチの先に、ドイツ植民地時代に造られたオアシスの街があるのだ。街に近づくとフェニックスの並木が現れ、その先に緑やレンガ色の建物が林立している。そして街の向こうには、赤茶けた砂漠が何処までも広がっているのである。その海と砂漠、地中海の何処かのようなオアシスの街の景色が、何時しか男の体と心を和ませいた。

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「荷物さえ届けば、走れる。」男はそう思い始めていた。

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