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2019年3月16日 (土)

第五ステージ(The Long March)

今日は、このレース最大のクライマックスとなるはずのオールナイト76kである。
問題は天候だが、予報ではどうやら午後から雨になるらしい。

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肌寒い風の中、雲の多い空を見上げて気をもんでいると、今日はタートが9時とアナウンスがされた。昨夜遅くなってゴールした参加者への配慮らしい。
ともあれ、明日の夜明けまでタップリの時間があるんだから(何が起こるか分からないが)、今日こそはレース終盤をゆっくりと楽しもうと思っていた。
枯れ草を踏み分けて走って行くと、そこには一本の遙かなる道が出来ていく。
その道が、縫うように山裾を辿りながら登っていく。やはり今日も、山登りから始まったのである。

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しかし山頂に登り切ることなく下り始め、今度は湿原に踏み込んでいく。
幾つもの羊の群れを囲うゲートを越え、やがてWanaka湖の畔りへ出た。
この国では山と山の間には、氷河が造った大きなカール湖があって、その独特な景観を成している。
しかし今日は、その湖の水が海のように波立って、大きな波音と共に岸に打ち寄せていた。

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私達はその湖を眼下に、湖畔の道を上下しながら回り込んでいく。
昼近くなってCP2に着いて空を見上げると、湖の向こうは真っ黒な雲で覆われ始めていた。
そこから標高861mの山越えをしなければならないのだが、その登りが始まる頃から雨と風になった。
慌ててポンチョを被ったが、強風にあおられて何の役にも立たなかった。

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防水の上下を装備するよう義務づけられていたのに、どうも甘く見ていたようだ。
やむなく持っていた紐でポンチョぐるみ帯のように縛って、何とか急場をしのいでいた。
濡れながらも先を急がねばならず、どんどん標高を上げていったが、雨は強くなる一方だった。
やがて道はドロドロと泥濘んで、途中の川渡りも冷たさを除けば苦にならなくなった。

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もう何てもありである。この刹那を何とか切り抜けるしかない。
CP5(53k地点)では19時を回っていたが、雨の中で軽く食事を済ませ、ヘッドライトを装着して先を急いだ。
残りの距離は25k、何とか午前二時過ぎにはゴールしたいと考えていた。
風と雨は益々強まっていて、手が凍えて寒かったが、何とか耐えられるだろうと自分を叱咤していた。

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すると真っ暗な中で、男が大声で怒鳴っている。しかし、何と言っているのか分からない。
この寒さの中で大声で激励しているんだと理解して、ひたすら先を目指していた。
7~8k行った辺りだろうか、反対方向から先行していたランナーが次々と戻ってくる。

コースが折り返しに変更されたんだろうか・・・それにしても変だ。

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事情を聞こうにも、真っ暗だし言葉の壁もある。不安なままだが先を急ぐことにした。
大会のトラックが止まっていて、男が「誰かが指示するから、それまで先へ進め」と言っている。

更に2kほど進むと、男が立っていてCPでもないのに「ストップ!! ゴーバック」と叫んでいた。

何が何やら訳が分からなくなっていると、傍らから「ヤッチャン」と呼ぶ声がした。

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テントメイトのリチャードだった。彼によると、このままのレース続行は無理と判断され、レースは中断された。5kほどバックして、テントサイトに収容するらしい。
どうやら先行するランナーは、腰まで水に浸かって川を渡ったらしいが、今はもう増水でそれも出来ないらしい。

通ってきたCP5では、低体温症のランナーが続々と出ているとも言っていた。

再び「ヤッチャン。ゴー、バック」リチャードは力を込めて言った。

それから一時間あまり、私達は23時過ぎ、テントサイトの光を目にしていた。

ドロップバック(緊急時のために準備していた)が渡され、直ぐに着替えろという。

流石に寒く、しかし暗闇で自分のテントを探したが分からない。すると「ヤッチャン、こっちだ!!」とリチャードがテントの口を開けて叫んでいた。

テントを強い雨が打ち付けている。「終わった!」と思いつつ、興奮と安堵が代わる代わる
去来していた。

先行していたはずのイカリは、まだ帰ってきていなかった。

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